2026年8月更新
自然環境との共生は、気候変動対応と並び持続可能な社会の確立に向けてその重要性が高まっており、国際的な情報開示の枠組みづくりが本格化しています。
デンカグループは、ESG基本方針に「環境負荷低減と生物多様性の保全・保護」を掲げています。本方針のもと、事業活動に伴う環境への影響を把握し、生物多様性の維持・向上を目指してゆくことを目的に、TNFD※が発行したガイドラインに則して、対応を進めています。
2022年9月から、自社の事業活動と生物多様性の接点を見出し、優先課題を把握するという観点で生物多様性への取り組みに着手しています。この取り組みはまず、デンカの直轄事業所(工場・研究)は日本の各所に10拠点※1が散在し、その周辺の自然環境は様々であることから、各事業所が持つ自然環境との接点を2022年10月~2025年3月にわたり調査しました。(下記「自然環境予備調査」参照)
具体的には、TNFDが推奨するLEAPアプローチ※2を用いて、デンカグループのバリューチェーンの中でも企業活動と周辺の自然環境との関わりが大きいと考えられる直接操業の範囲において、生物多様性・自然環境への依存と影響を把握し、ENCORE分析※3を進め、軽減および回避するための取り組みについて、情報を整理し開示いたします。特に、夜間に昆虫が集まりにくい照明の導入や、敷地内の水路を定期的に清掃することで水質を改善するなどの対応をはじめとして、全社的な取り組みを行っております。
また、新しく土地を利用する、あるいは既存の土地利用の方法を変更する場合には、生物多様性への影響を評価し、負の影響を与える恐れがあると判断される場合、その影響を最小化するよう努めています。
デンカは、 2022年10月以降継続して、事業所における生物多様性リスクの定量的な評価を実施しています。国内事業所10拠点について、それぞれ環境データ(工場周辺における生物多様性にとって重要な地域の有無、生態系の完全性が急速に低下している地域の有無等)を整理するとともに、立地や操業活動の観点から自然環境との接点を現地で確認する活動を継続しています。
また、地域に根差した取り組みを検討すべく、拠点が立地する行政との意見交換も進めており、現在はデンカイノベーションセンターが所在する東京都町田市と、希少植物保全のための活動について協議しております。
デンカイノベーションセンターの立地環境の確認
渋川工場の排水経路の確認
千葉工場内の緑地環境
デンカイノベーションセンター内に自生する希少種
五泉事業所に近接する河川環境
| 拠点 | 環境データ整理 | 現地確認 | 自治体ヒアリング | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 青海工場 | 〇 | 〇 | 〇 | 地域の自然環境、動植物について地元の有識者にインタビューを追加で実施 |
| 大牟田工場 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 千葉工場 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 美唄分工場 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 渋川工場 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 大船工場 | 〇 | 〇 | ― | 工場稼働停止のため自治体ヒアリングは不実施 |
| 伊勢崎工場 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 伊勢崎(太田)工場 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 五泉事業所 (新潟工場、鏡田工場) |
〇 | 〇 | 〇 | |
| デンカイノベーションセンター | 〇 | 〇 | 〇 |
デンカの事業活動によって生物多様性に影響を与える可能性について、環境省が運用している「環境アセスメントデータベース"EADAS"」やコンサベーション・インターナショナル・ジャパンのKBA調査の成果「KBAマップ」等を使用して生物多様性重要エリアとの近接状況を調べました。
調査対象は国内生産拠点から約半径5km圏内(美唄分工場のみ20km圏内)としています。
結果、以下10拠点のうち、5拠点において生物多様性重要エリアと近接していることを確認しました。
| 拠点 | KBAとの近接有無 | 保全すべき生物多様性エリア |
|---|---|---|
| 青海工場(田海工場含む) | 〇 | 妙高、北アルプス |
| 大牟田工場 | 〇 | 有明海奥部 |
| 千葉工場 | 〇 | 東京湾 |
| 美唄分工場 | 〇 | 石狩川流域湖沼群 |
| 渋川工場 | × | - |
| 大船工場 | × | - |
| 伊勢崎工場(太田工場含む) | × | - |
| 五泉事業所(新潟・鏡田) | 〇 | 越後平野 |
| デンカイノベーションセンター | × | - |
また、デンカイノベーションセンター内で自生している絶滅危惧種のキンラン・ギンランを保護するため、周辺に立ち入ることを防ぐ防護柵を設置し、10年以上にわたり株数を計測するなど管理を継続しております。
当社は今後も、希少種や固有種を確認した際はそれらを保全・保護する取り組みを継続してまいります。
デンカの国内直轄事業所10拠点について、主要な事業活動を俯瞰し、自然との依存・影響をENCOREを活用し科学的根拠に基づいた分析をまとめました。(下表参照)
| 事業拠点 | 主要事業活動 | 依 存 | 影 響 | |||||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 水流調節 | 水供給 | 水の浄化 | 固形廃棄物の浄化 | 遺伝素材 | 教育、研究サービス | 水使用量 | GHGの排出 | GHG以外の大気汚染物質の排出 | 水と土壌への汚染物質排出 | 水と土壌への栄養汚染物質排出 | 固形廃棄物の発生と放出 | かく乱 | ||
| 青海工場 (田海工場含む) |
カーバイド | High | High | High | Medium | High | High | High | Very High | Medium | High | Very High | ||
| 有機化成品 | High | High | High | High | High | High | High | Very High | Medium | High | Very High | |||
| 特殊混和材 | Medium | Medium | Medium | Medium | Medium | High | High | Very High | Medium | Medium | Medium | |||
| 水力発電 | Very High | Very High | High | Very High | Very High | |||||||||
| 千葉工場 | スチレン系樹脂 | Low | Low | Medium | Medium | Low | Medium | Medium | Very High | Medium | Medium | High | ||
| 大牟田工場 | 放熱材料 | Low | Low | Medium | Low | Medium | Medium | Very High | Medium | Very High | ||||
| 渋川工場 | 接着剤 仮固定材 |
Low | Low | Medium | Medium | Low | Medium | Medium | Very High | Medium | Medium | Very High | ||
| 放熱基板 電子素子 |
Low | Low | Medium | Low | High | Medium | ||||||||
| 伊勢崎工場 (太田工場含む) |
スチレン系 樹脂シート |
Low | Low | Medium | Medium | Low | Medium | Medium | Very High | Medium | Medium | High | ||
| 美唄分工場 | コルゲート | Low | Low | Medium | Medium | Low | Medium | Medium | Very High | Medium | Medium | Very High | ||
| 五泉事業所 | ワクチン 検査試薬 |
High | High | Very High | High | Very High | Medium | High | High | High | High | High | High | |
| イノベーション センター |
基礎研究 | High | High | Very High | Medium | High | ||||||||
デンカ国内直轄事業所が該当するセクターでは、ENCORE分析により「水」「温室効果ガス」「水・土壌汚染物質」「固形廃棄物」「かく乱」のカテゴリーに属する生態系サービスへの依存や、自然資本への影響が強いことを把握しました。また、特に青海工場の水力発電は「水」への依存と影響が強いことから、青海工場の水力発電に接点がある地域は、注意が必要な地域として「優先地域」に特定しました。「優先地域」として指定した青海工場における周辺環境への施策として、夜間に昆虫が集まりにくい照明を導入することで生物多様性に対する負の影響を軽減する取り組みを実施しています。また、「優先地域」である青海工場の水力発電所敷地内の水路を定期的に清掃することで水質を改善し、生物多様性に対する正の影響を増大させる取り組みを実施しています。
| 事業と自然との接点 | 自然への依存・影響 | ||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| バリューチェーン | 拠点・施設名 | 事業活動 | 対象区域等 | 自然環境との関わり | 依存 | 影響 | 生態系の完全性 | 生物多様性の重要度 | 水ストレス |
| 原料調達 | 水源涵養林 | 水源涵養 | 姫川など上中流域 | 水力発電、工業用水のための水源は、生物の重要な生息地を利用している | ○ | ― | 高 | 高 | ― |
| 堰 | 取水 | 姫川・青海川・海川・早川 | 姫川等の河川に取水堰を設置している | ○ | ○ | 高 | 高 | 高 | |
| 送電線 | 送電 | 送電線周辺 | 鳥類の生息環境に送電線を設置している | ― | ― | 小 | 大 | ― | |
| 加工製造 | 工場 製造施設 | 加工製造 | 工場及び周辺 | 廃棄物の保管場所周辺に二次林、青海川がある | ― | ○ | ― | 高 | ― |
| 取排水は青海川を利用して行われている | ○ | ○ | 高 | 高 | 高 | ||||
| 工場緑地は二次林に面し、一部を緑地としても利用している | ○ | ― | 中 | ― | ― | ||||
| 水力発電施設 | 発電 | 発電施設周辺 | 姫川等の河川水を利用して発電している | ○ | ― | 小 | 小 | 小 | |
集水域の様子
水源涵養林の自然環境調査
地元住民の憩いの場:田海ヶ池と工場
田海工場緑地の自然環境調査
田海工場緑地で確認した希少種ナツエビネ(ラン科)
青海工場における自然関連のリスクと機会は、自然資本との依存・影響の関係から生じるものと認識のうえ、デンカグループの事業活動が環境や社会に及ぼすことにもつながるとの観点から、重要なリスクと機会を特定することとし、評価については、TNFDが提供する「シナリオ分析ガイダンス」を参考に将来世界の仮説をたて、「発生可能性※5(実現可能性※6)」と「深刻度※7(影響度※8)」の2軸により検討し、分析し、特定しました。(下表参照)
| TNFD分類 | リスクと機会の分析事象 | シナリオ | インパクト算出の想定内容 | 財務 インパクト |
対策 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 移行 | 規制 |
|
|
|
中 |
|
| 政策 |
|
|
|
大 |
|
|
| 物理 | 慢性 | (間接損害)
|
|
|
小 |
|
| 急性 | (直接損害)
|
|
|
中 |
|
|
| 企業のパフォーマンス | 市場 |
|
|
|
大 |
|
| 評判 |
|
|
|
小 |
|
|
青海工場の自然資本とのリスクと機会の重要度評価をもとに、財務へのインパクトについて試算し、評価を行いました。
財務インパクトの評価は、リスクの深刻度、機会の影響度について、列挙した項目に関連するデンカの実績データや設定値、公開パラメータなどを用いた試算、あるいは影響範囲からの定量的な評価をおこないました。更に、リスクの発生可能性、機会の実現可能性はデンカの事例やシナリオ別の動向予測などを鑑みて定性的な評価を行っています。
優先地域とした青海工場における自然関連のリスク・機会の重要度評価と財務インパクト評価により、優先課題(マテリアリティ)が特定されました。これらの対応策の策定は、SBTNが提唱する「AR3Tフレームワーク※9」を採用し、影響の回避・低減から自然の再生・回復、更にはシステム変革への貢献というステップで取り組みを整理しています。
2026年度以降の取り組みは、青海工場で特定した優先課題に対して実効性の高い施策を具体化し、評価する指標(KPI)と目標の設定を行います。取り組みにあたっては、デンカが関係する行政機関との連携や青海工場の地元の自然環境に携わる専門家とのコミュニケーション等を大切にし、デンカグループとしての具体的な環境保全活動につなげていきます。
更に、デンカグループの環境マテリアリティ「環境の保全・環境負荷の最小化」の達成を目指すため、バリューチェーン(上流・下流)への拡大も視野に入れ、ネイチャーポジティブへの移行と持続可能なビジネスモデルの構築を加速させてまいります。
当社は、2024年8月に、生物多様性に関する国際イニシアティブである自然関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Nature related Financial Disclosures:TNFD)のフォーラムにメンバーとなりました。

当社は2024年10月に「経団連自然保護協議会※」に入会し、生物多様性宣言イニシアティブを通じて生物多様性への社会的な貢献を行います。
当社は、ポリスチレン樹脂を二軸延伸したシート「BOPS」の特性である透明性・剛性・食品安全性を維持しつつ、バイオマス由来の原料をマスバランス方式により割り当てた「バイオマスBOPS」を販売しております。
本製品は、リサイクル原料やバイオマスなどの持続可能な原料を用いた製品をサプライチェーン上で管理・担保する国際的な認証制度であるISCC PLUS 認証を受けた製品群です。
当社は、化石資源の使用を抑制し、再生可能な資源の活用を促進することで、生態系への負荷低減や生物多様性保全に配慮した製品開発および持続可能な原料の利用を実現し、循環型社会の実現と自然環境との共生に貢献してまいります。
デンカは、優先地域とした青海工場の他の国内直轄事業所10拠点を含くめて、地域の生物多様性の保全のため、30by30アライアンスや気候変動イニシアティブなどのイニシアティブへの参画をはじめとした、さまざまな活動を通じて、政府・自治体・企業・地域コミュニティと協働しています。
デンカグループは、資源循環ブランド「D-NODE®」のもと、ポリスチレンのケミカルリサイクル技術を活用し、資源価値の最大化と廃棄物削減を両立する循環型モデルを構築しています。千葉県市原市・地域住民・東洋スチレン(弊社グループ会社)との官民連携により、公共施設14拠点で使用済みポリスチレンを回収し、分別精度85%以上の対象品を再資源化することで、焼却処理と比較してCO2排出量を約40%削減します。さらに、この取り組みは廃棄物の適正処理による自然環境への負荷低減を通じて、生物多様性保全にも寄与しています。国内最大級のポリスチレン生産能力を持つ当社は、社会的影響力を活かし、今後は処理能力の拡大に加え、自治体・企業・地域コミュニティとの協働を深めることで、持続可能な資源循環と生態系保全の両立を推進していきます。
渋川工場では、工場の位置する中村地区の用水組合とともに、工場敷地内および隣接地域の農業用水路の清掃活動を行っています。この活動は毎年田植え前に実施されており、農業用水の安定供給、水田の保護、稲作の支援に寄与するとともに、水田に生息する多様な生物の生態系維持にも貢献しています。
水路のゴミや草取り、土砂・藻の除去の様子