
NPO法人
循環型社会研究会
理事 山口民雄
当社の報告書の第三者意見を2011年から執筆しています。この間、継続的に改善されてきていますが、時に飛躍的に改善されたこともありました。2025年版はこの飛躍的改善に値するのではないでしょうか。昨年の第三者意見で「本レポートの改善の重要なポイントは価値創造ストーリーの解像度を上げることではないでしょうか」と提起させていただきました。この点について本レポートでは、まず、企業価値を定義し、そしてその算出式を示し、この式に沿ったデンカの企業価値、事業によるキャッシュの創出、将来に向けた成長率の向上、資本コストの最小化を本レポートの構成の柱とし、各取り組み、展望を明らかにしました。このことによってレポート全体が価値創造ストーリーの流れをつくりあげ、各取り組みが企業価値創造にどのように寄与しているかが明確になり、企業価値創造ストーリーの解像度が上がりました。このことが飛躍的改善の印象を読者に与えると考えます。
企業価値を定義する手法はいくつかありますが、それぞれ限界点があり統合報告書には適さないものもあります。今回採用されたDCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)を抽象化したこの算出式は将来の成長性を反映できる、企業固有の事情を盛り込める、環境価値や社会価値を包含できるなど統合報告書における企業価値の定義として非常に分かり易いものです。この手法を採用する企業も出てきており、賢明な選択であったと思います。
DCF法の採用によりレポートの記述にも変化が出てきています。例えば「無形資産の強化」です。これまで、無形資産については知的財産の取り組みの中でのみ言及されてきましたが、今回は成長の原動力として位置付け、知的財産だけでなく、人的資本経営、サステナビリティマネジメント、DDXなどを無形資産ととらえ、その強化を宣言しました。無形資産が資本コストの最小化や成長率の向上に寄与することを明らかにしています。
読者の関心の的となる記述の充実も見られます。その代表例がマテリアリティやロードマップです。マテリアリティの特定は組織が直面している主要な課題や機会を明らかにし、その取り組みが価値創造を大きく左右することから注目度はますます向上しています。そのため、この間のレポートにおいても記述の充実が図られてきましたが、本レポートにおいてはさらに1歩進め、マテリアリティとMission2030のKPIや2030年目標と紐付けました。同時に「マテリアリティ」という言葉の登場頻度が格段に増加しています。このことからマテリアリティが当社内で理解、浸透し、様々な方針や計画遂行の羅針盤になってきていることが伺われます。
マテリアリティへの関心の対象に特定のプロセスがあります。本レポートでは「見直しのプロセス」として概要が記載されていますが、これだけではマテリアリティの妥当性を納得させるには不十分ではないでしょうか。マテリアリティ特定の前提となる情報が不可欠と考えます。Mission 2030と緊密に連動していることから、Mission2030策定時及び2030年までの経営環境や社会的動向を一体的に記載すべきと考えます。このことによって特定が妥当という認識が読者をはじめ従業員にもより広がるのではないでしょうか。
ロードマップは企業価値創造のプロセスを時間軸に沿って整理し、目標を確実に実現する設計図として重要なものです。特に統合報告書は従来の報告書と違い将来の姿を語ることに重点がおかれますので、その姿が現実化する必然性を示すロードマップが重要視されます。レポートではこの点に配慮してこれまでも記載に努めてきていますが、本レポートではDDXロードマップのように緻密な記載が出てきています。常に社会的な環境変化を加味して緻密なロードマップ作製に心掛けてください。
本レポートは高い完成度の領域に達していますが、レポートの最終ゴールポストは社会の要請の領域拡大、深度化によって留まってはいません。常にアンテナを高くし、その要請を受け止め継続的改善に反映することが重要です。当面の課題としては経営戦略と連動した人財戦略、非財務の財務化へのより詳細なプロセス、定量的な影響などの記載があげられます。
前者について昨年も「経営戦略と人財戦略の一体化が読み取れません」と申し上げましたが実現できていません。統合報告書における人財戦略の開示は「持続的な企業価値の向上を実現するためには、ビジネスモデル、経営戦略と人材戦略が連動していることが不可欠である」(人材版伊藤レポート)とあるように連動が重要であり、その連動を具体的に見せることが不可欠です。経営戦略の推進にはどのような人材が必要か、その人材をどのように育成するのか、獲得するのかなどの人財戦略を経営戦略と連動して記述すべきと考えます。
後者についてはこれまでも「非財務指標と財務成果のつながり」(2024年版)、「非財務指標と企業価値のつながり」(2025年版)のように非財務の取り組みが財務・企業価値へのつながりを可視化して開示してきました。これらの可視化をさらに歩を進め、個別の非財務の取り組みがどのようなプロセスを経て財務化していくのかを可視化していただきたいと思います。そして、それらの個別の取り組みがPBR、ROEなどの経営指標にどの程度影響するのかを見せていただくことを期待します。
新聞社で25年勤務後、環境スタートアップ企業に転職、その後、出版社を経てフリー。大学講師やNPO活動を通じて企業の情報開示のあり方を追求し今日に至る。この間、講演や論文発表、第三者意見執筆、企業情報開示コンサルティングなどを展開。
著書は「環境経営への軌跡」、「CSR報告書の動向と記載事例集」(2010~2017)「日本の報告書:動向と事例集」(2018~2019)、「効果が見えるCSR実践法」(共著)、「環境ソリューション企業総覧Vol1~Vol6」(共著)。
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