特定非営利活動法人
循環型社会研究会
理事 山口民雄
本レポートを通読して特に印象に残ったキーワードは「変革」です。評価の高いレポートの共通の特徴は「何を伝えたいのか」「なぜ伝えたいのか」などを明確に読者に訴えている点にありますが、本レポートも「成長軌道回帰のために変革を」が読み取れます。「偉大な企業は冬に生まれる」との言葉を社長が引用されていますが、文字通り「冬に生まれる」ための「変革」が社長メッセージをはじめレポート全体からその決意、熱意が伝わってきました。「変革」のためには決意・熱意に加えて具体的なアクションや実現までのプロセスが不可欠ですが、本レポートではこれらが丁寧に記載されています。例えば、マテリアリティの一つでもある「新事業の創出」については全社改革運動の一つとして「ビジネスアイディアコンテスト」を開始し、この成果も含めて新事業ロードマップを示し、併せて仕組みの高度化について説得力を持った記載をしています。今後、より緻密なロードマップの作製を期待します。
また、社長メッセージだけでなく、様々な責任者のメッセージが記載されていることもレポートの評価を上げています。CxOをはじめ、会長、執行役員、社外取締役、担当役員、部門長などのメッセージです。報告書におけるCxOや社外取締役のメッセージは投資家ばかりでなく多くのステークホルダーが注目しています。それは、一人称として認識や決意を表明することは、ステークホルダーの不安や疑念を払拭し信頼感を一層高める力があるからでしょう。
2件のネガティブ情報の記載も誠実で充実したものになっています。昨年の第三者意見で「トップメッセージを受けて本文においてページを割き、2件の事実経過、原因究明、再発防止策をまとめて記載すべき」と述べましたが、本レポートには過不足なく記載されています。次年度以降は、本件を風化させないためにも再発防止策の有効性の検証報告をしていただきたいと思います。
マテリアリティの記載も充実してきています。統合報告書では約90%がマテリアリティを特定しています。これは、マテリアリティの特定は組織が直面している主要な課題や機会を明らかにし、ビジョン実現に向けた価値創造戦略を明確にするなどコミュニケーションの質を高める上で重要な役割を担うためと考えます。しかしながら、マテリアリティ評価分析が曖昧に行われ、マテリアリティが「開示のための開示」になってしまっている報告書も少なくありません。これでは、開示を起点とした経営変革を促す効果も期待できません。そのため、マテリアリティと経営重要課題と紐づけて記載する必要があります。昨年はマテリアリティとESG基本方針、課題解決の方向性と紐づけて記載されていましたが、本レポートではそれに加えて経営計画の3つの成長戦略と紐づけて説明されています。
今回、第三者意見を執筆するに当たり、本レポートと合わせて「サステナビリティブック」も拝見しました。このブックの中に「法令・規制による開示のない情報であっても,ステークホルダーの皆様にとって有用であると判断した情報は、積極的な開示に努めています」とあるように、本レポートの開示情報量も豊富です。中には「補助金実績一覧、新人の最低賃金とその地域の法定最低賃金の比率」など他のレポートにはあまり見られない開示もあります。
以上、評価できる点の一部を申し上げましたが、レポートの評価基準はますます高度化してきています。そのためには、決して継続的改善の歩を止めないことが重要です。本レポートの改善の重要なポイントは価値創造ストーリーの解像度を上げることではないでしょうか。各レポートもこの点に注力されていることと思いますが、経済産業省の「企業情報開示のあり方に関する懇談会 中間報告:2024.6」によれば、価値創造ストーリーを伝えるという本質的な開示が十分できている統合報告書ばかりではない、と指摘しています。投資家の報告書の評価においても「評価ポイントは、法定開示では捉えられない自社のビジネスモデルの独自性を踏まえた企業価値向上のストーリーになっているかであり、その重要性については以前より増している」との声があります(GPIF:優れた統合報告書・改善度の高い統合報告書を選定する上での考え方や評価の視点・ポイント)。そのため、価値創造ストーリーの出来不出来で報告書の評価が定まってしまうといっても過言ではありません。統合報告書の核心は価値創造ストーリーなのです。
ストーリー性を出すためには各開示項目の“接続性”を十分に意識して記載することが肝要ですが、本レポートのように多くの情報を開示している場合、全ての情報を緻密に接続していくことは容易ではないでしょう。また、複数のビジネスモデルを擁している貴社では価値創造ストーリーをシンプルに伝えることは難しいでしょう。各社では様々な工夫がされていますが、①マテリアリティを軸に接続を示す、②価値創造をロジックツリーで示し、ツリーを解説する、③いわゆるオクトパスモデルを軸に構成するなどが有効ではないかと考えます。これらも、統合思考がベースとして必要ですので統合思考の浸透が第一歩です。
人的資本が企業価値の向上の重要な要素であるという認識が広がってきています。人材版伊藤レポートでは「人的資本が競争力の源泉となる時代においては、経営戦略との連動という観点で人的資本、人材戦略を定量的に把握・評価し、ステークホルダーに開示・発信することが求められる」と企業に人的資本に関してより積極的かつ経営戦略と連動した開示を促しています。本レポートにおいてもCHROメッセージのなかで「経営戦略と人財戦略の一体化を図り」と述べられています。この想いは伊藤レポートの意向に合致するものですが、残念ながら人材戦略はよくわかりますが一体化が読み取れません。両戦略の連動を見える化した記載を期待します。
新聞社で25年勤務後、環境スタートアップ企業に転職、その後、出版社を経てフリー。大学講師やNPO活動を通じて企業の情報開示のあり方を追求し今日に至る。この間、講演や論文発表、第三者意見執筆、コンサルティングなどを展開。
著書は「環境経営への軌跡」、「CSR報告書の動向と記載事例集」(2010~2017)「日本の報告書:動向と事例集」(2018~2019)、「効果が見えるCSR実践法」(共著)、「環境ソリューション企業総覧Vol1~Vol6」(共著)。
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