External Evaluation 外部評価

2024年

2024年

特定非営利活動法人 循環型社会研究会 理事 山口民雄

特定非営利活動法人
循環型社会研究会
理事 山口民雄

成長軌道回帰に向けた全社変革運動の全貌を示したレポート

本レポートを通読して特に印象に残ったキーワードは「変革」です。評価の高いレポートの共通の特徴は「何を伝えたいのか」「なぜ伝えたいのか」などを明確に読者に訴えている点にありますが、本レポートも「成長軌道回帰のために変革を」が読み取れます。「偉大な企業は冬に生まれる」との言葉を社長が引用されていますが、文字通り「冬に生まれる」ための「変革」が社長メッセージをはじめレポート全体からその決意、熱意が伝わってきました。「変革」のためには決意・熱意に加えて具体的なアクションや実現までのプロセスが不可欠ですが、本レポートではこれらが丁寧に記載されています。例えば、マテリアリティの一つでもある「新事業の創出」については全社改革運動の一つとして「ビジネスアイディアコンテスト」を開始し、この成果も含めて新事業ロードマップを示し、併せて仕組みの高度化について説得力を持った記載をしています。今後、より緻密なロードマップの作製を期待します。
また、社長メッセージだけでなく、様々な責任者のメッセージが記載されていることもレポートの評価を上げています。CxOをはじめ、会長、執行役員、社外取締役、担当役員、部門長などのメッセージです。報告書におけるCxOや社外取締役のメッセージは投資家ばかりでなく多くのステークホルダーが注目しています。それは、一人称として認識や決意を表明することは、ステークホルダーの不安や疑念を払拭し信頼感を一層高める力があるからでしょう。
2件のネガティブ情報の記載も誠実で充実したものになっています。昨年の第三者意見で「トップメッセージを受けて本文においてページを割き、2件の事実経過、原因究明、再発防止策をまとめて記載すべき」と述べましたが、本レポートには過不足なく記載されています。次年度以降は、本件を風化させないためにも再発防止策の有効性の検証報告をしていただきたいと思います。
マテリアリティの記載も充実してきています。統合報告書では約90%がマテリアリティを特定しています。これは、マテリアリティの特定は組織が直面している主要な課題や機会を明らかにし、ビジョン実現に向けた価値創造戦略を明確にするなどコミュニケーションの質を高める上で重要な役割を担うためと考えます。しかしながら、マテリアリティ評価分析が曖昧に行われ、マテリアリティが「開示のための開示」になってしまっている報告書も少なくありません。これでは、開示を起点とした経営変革を促す効果も期待できません。そのため、マテリアリティと経営重要課題と紐づけて記載する必要があります。昨年はマテリアリティとESG基本方針、課題解決の方向性と紐づけて記載されていましたが、本レポートではそれに加えて経営計画の3つの成長戦略と紐づけて説明されています。
今回、第三者意見を執筆するに当たり、本レポートと合わせて「サステナビリティブック」も拝見しました。このブックの中に「法令・規制による開示のない情報であっても,ステークホルダーの皆様にとって有用であると判断した情報は、積極的な開示に努めています」とあるように、本レポートの開示情報量も豊富です。中には「補助金実績一覧、新人の最低賃金とその地域の法定最低賃金の比率」など他のレポートにはあまり見られない開示もあります。

統合思考を浸透させ、価値創造ストーリーの解像度向上を

以上、評価できる点の一部を申し上げましたが、レポートの評価基準はますます高度化してきています。そのためには、決して継続的改善の歩を止めないことが重要です。本レポートの改善の重要なポイントは価値創造ストーリーの解像度を上げることではないでしょうか。各レポートもこの点に注力されていることと思いますが、経済産業省の「企業情報開示のあり方に関する懇談会 中間報告:2024.6」によれば、価値創造ストーリーを伝えるという本質的な開示が十分できている統合報告書ばかりではない、と指摘しています。投資家の報告書の評価においても「評価ポイントは、法定開示では捉えられない自社のビジネスモデルの独自性を踏まえた企業価値向上のストーリーになっているかであり、その重要性については以前より増している」との声があります(GPIF:優れた統合報告書・改善度の高い統合報告書を選定する上での考え方や評価の視点・ポイント)。そのため、価値創造ストーリーの出来不出来で報告書の評価が定まってしまうといっても過言ではありません。統合報告書の核心は価値創造ストーリーなのです。
ストーリー性を出すためには各開示項目の“接続性”を十分に意識して記載することが肝要ですが、本レポートのように多くの情報を開示している場合、全ての情報を緻密に接続していくことは容易ではないでしょう。また、複数のビジネスモデルを擁している貴社では価値創造ストーリーをシンプルに伝えることは難しいでしょう。各社では様々な工夫がされていますが、①マテリアリティを軸に接続を示す、②価値創造をロジックツリーで示し、ツリーを解説する、③いわゆるオクトパスモデルを軸に構成するなどが有効ではないかと考えます。これらも、統合思考がベースとして必要ですので統合思考の浸透が第一歩です。
人的資本が企業価値の向上の重要な要素であるという認識が広がってきています。人材版伊藤レポートでは「人的資本が競争力の源泉となる時代においては、経営戦略との連動という観点で人的資本、人材戦略を定量的に把握・評価し、ステークホルダーに開示・発信することが求められる」と企業に人的資本に関してより積極的かつ経営戦略と連動した開示を促しています。本レポートにおいてもCHROメッセージのなかで「経営戦略と人財戦略の一体化を図り」と述べられています。この想いは伊藤レポートの意向に合致するものですが、残念ながら人材戦略はよくわかりますが一体化が読み取れません。両戦略の連動を見える化した記載を期待します。

  • 循環型社会研究会:次世代に継承すべき自然生態系と調和した社会の在り方を地球的視点から考察し、地域における市民、事業者、行政の循環型社会形成に向けた取り組みの研究、支援、実践を行うことを目的とする市民団体。サステナビリティワークショップでは報告書のあるべき姿を研究し、提言している。
    URL:http://junkanken.com/
略歴

新聞社で25年勤務後、環境スタートアップ企業に転職、その後、出版社を経てフリー。大学講師やNPO活動を通じて企業の情報開示のあり方を追求し今日に至る。この間、講演や論文発表、第三者意見執筆、コンサルティングなどを展開。
著書は「環境経営への軌跡」、「CSR報告書の動向と記載事例集」(2010~2017)「日本の報告書:動向と事例集」(2018~2019)、「効果が見えるCSR実践法」(共著)、「環境ソリューション企業総覧Vol1~Vol6」(共著)。

株式会社ディ・エフ・エフ, デンカ株式会社 CSR・広報室, デンカ株式会社 IR室, 星和ビジネスリンク
外部評価
CDP

CDP2023「気候変動」で「A-」・「水セキュリティ」で「B」の評価を獲得

2024年2月6日にCDP2023スコアが発表され、当社は「気候変動」で「A-」、「水セキュリティ」で「B」を獲得しました。 CDP...

外部評価
外部認証取得

外部認証取得状況

2024年6月時点 デンカグループは、環境と品質マネジメントシステムを運用して、継続的改善を進めています。 ISO14001...

外部評価
社外表彰

「プレストレストコンクリート工学会賞(論文賞)」を受賞

インフラソリューション研究部GLの栖原健太郎と青海工場次長の小竹弘寿が、「プレストレストコンクリート工学会賞(論文賞)」を受賞いたしました。 ...

外部評価
社外表彰

「土木学会 吉田賞」および「日本コンクリート工学会賞(功労賞)」を受賞

インフラソリューション研究部長の盛岡実が、「土木学会 吉田賞(論文部門)」、「日本コンクリート工学会賞(功労賞)」の2つの賞を受賞いたしました。 ...

外部評価
社外表彰

「電気学会基礎・材料・共通部門大会」優秀論文発表賞を受賞(2019年9月)

2019年9月に開催された令和元年電気学会 基礎・材料・共通部門大会(岩手大学)にて、デンカイノベーションセンター先進技術研究所の青山 周平が優秀...

外部評価
社外表彰

国際的な標準化活動における功績で、産業標準化事業表彰・経済産業大臣表彰を受賞 (2019年10月8日)

新事業開発部の伊吹山正浩シニアテクニカルアドバイザー(STA)が、経済産業省「産業標準化事業表彰」経済産業大臣表彰を受賞し、10月8日に表彰式が行...

外部評価
社外表彰

uruoiグローバルウェブサイトが「awwwards. Site of the Day」を受賞 (2019年8月23日)

デンカコーポレーション(米国ニューヨーク)が運営するuruoi グローバルウェブサイトが、世界的なウェブデザインアワードである "awwwards...

外部評価
社外表彰

sd LDL-C検査試薬開発で米国AACC学会ZAK賞を受賞 (2019年8月5日 米国アナハイム)

デンカ株式会社の連結子会社であるデンカ生研株式会社 試薬学術部部長の伊藤康樹は、「small, dense LDL-C(注1)」自動分析装置用測定...

外部評価
社外表彰

「化学とマイクロ・ナノシステム学会」優秀研究賞を受賞(2019年5月27日)

5月27~28日に金沢大学で開催された、一般社団法人 化学とマイクロ・ナノシステム学会の第39回研究会(CHEMINAS39)にて、デンカイノベー...

外部評価
社外表彰

当社研究員の論文が英国学術誌「Analyst」の表紙に選出(2019年3月7日)

2019年3月に発行されたRoyal Society of Chemistry(英国王立化学会)の学術誌「Analyst...

外部評価
2024年

2024年

特定非営利活動法人循環型社会研究会理事 山口民雄 成長軌道回帰に向けた全社変革運動の全貌を示したレポート 本レポート...

外部評価
2023年

2023年

特定非営利活動法人循環型社会研究会理事 山口民雄 期待に応えた本年のレポート 約20年間、数社のレポートの第三者意見...

外部評価
2022年

2022年

特定非営利活動法人 循環型社会研究会 理事 山口民雄 当社のレポートに対する第三者意見は2011年版の「CSR報告書」以降...

外部評価
2021年

2021年

特定非営利活動法人 循環型社会研究会 理事 山口民雄 2020年以降のコロナ禍や急速に進む脱炭素化によってビジネス環境は大...

外部評価
2020年

2020年

特定非営利活動法人 循環型社会研究会 理事 山口民雄 本第三者意見は、レポートの制作過程で提出した私のコメントをベースにし...

外部評価
2019年

2019年

特定非営利活動法人 循環型社会研究会 理事 山口民雄 本第三者意見は「デンカレポート2019」とウェブの「CSR情報サイト...