特定非営利活動法人
循環型社会研究会
理事 山口民雄
約20年間、数社のレポートの第三者意見を執筆してきています。この間、時代状況に対応して評価視点が変わってきていますが、変わらぬ視点は「このレポートはこの企業の実像及び将来像を表現しているか否か」です。そのため「評価できる点」とともに「今後期待する点」も実像・将来像を明確にし、かつ、企業価値を向上させるために不可欠な指摘と考えます。後者の指摘が多少でも参考になり、企業活動改善の契機となればコメンテーター冥利に尽きます。
本レポートでは、昨年の第三者意見での「期待」に対応した「結果」が多く記載されています。「第三者意見が取り組みを促進させた」という不遜な思いはありませんが、コメンテ ーターにとっては心躍る境地でレポートを読み進ませていただきました。
昨年の第三者意見では以下のような「期待」を記載しました。
1)についての代表例は社⻑メッセージの「時間軸と連動したKPIをもって、スタートアップとの協業、M&A等の手法を用いた事業創出をスピーディーに進めていきます」です。この点については、2030年の財務、非財務のKPIが設定され、それらを裏付ける戦略投資も示されました。また、事業創出については、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)を設立し、その背景、狙い、期待などが詳述されています。
2)については、戦略を支えるマテリアリティとの関係を明らかにしつつ、具体的にリスクマネジメントやステークホルダーとの対話をはじめ、様々なサステナビリティ課題を経営に組み込む際に本方針が生かされていることが伝わりました。また、KPIについては必ずしも13項目とは合致しませんが、人材価値創造、経営価値創造に関する非財務KPIが制定され経営計画の中で生かされていくことが理解できました。
3)については、従来の企業理念「The Denka Value」が使命、行動で構成されていましたが、新企業理念ではコアバリュー、パーパス、ミッションを包含した「OUR VISION」として提示されました。特にこの企業理念制定が若手従業員の議論から始まっていることは注目に値します。
4)については、2023年4月に「サステナビリティ委員会」が設立されました。この委員会により、執行部門のより積極的な取り組みが推進されることと思います。今後、オブザ ーバーを超えた取締役の参画や取締役会の内部に委員会を設けることなども検討に値するのではないでしょうか。
なお、期待にまだ応えきれない事項もあります。昨年、「将来の財務に結び付く非財務の取り組みを可視化させる準備を進めています」との記載に対し、どのように時間軸を経て非財務が未財務、財務に転換していくのかを立証されることを期待しました。この点は、日本企業のレポートを拝見する限りまだ少数ですが、投資家の「漠然としたESG情報ではなく、企業の収益にどのように影響するのかという情報が欲しい」との要請に応えるものです。ISSB基準や改訂されたコーポレートガバナンス・コード、企業内容等の開示に関する内閣府令などでも同趣旨の要請があります。
本レポートは、機関投資家との対話での指摘事項に対応し、昨年のレポートから大幅(58頁から84頁)に増頁しています。このことは、建設的な対話を通じて自社の課題克服や中⻑期的な企業価値を向上させるという強い意志の表れでしょう。また、投資家以外のステークホルダーにとっても新たな8年に向けて、ESG経営のさらなる深耕が伝わります。その象徴例が新組織の設立(サステナビリティ委員会、ポートフォリオ変革委員会、財務戦略部、新事業開発部門など)と組織への参画(国連グローバル・コンパクト、Green×Digital コンソーシアムなど)です。⼭本明夫取締役は「未来は言葉、未来は制度」とおっしゃいましたが、私はこれらに「未来は参画」を追加したいと思います。「参画」により、視界が大きく開け、グローバルスタンダードを保持した新しい企業像が獲得できると思います。
次に今後より充実していただきたい2点を申し上げます。第1は人権です。2023年6月に UNGC(国連グローバル・コンパクト)に賛同を表明され、9月には「人権方針」が制定され、また、「人権尊重」をマテリアリティの一つとして特定するなど重要な1歩を踏み出されました。このことは評価できますが、あくまで“はじめの1歩”との認識が重要です。国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」では企業に以下の3点を求めています。
特にデュー・ディリジェンスは非常に重要な取り組み、開示事項ですのでレポートで表明されたように計画的に取り組み、その仕組みや結果について開示いただきたいと思います。また、人権を尊重する企業の責任として是正に取り組むことは不可欠ですのでその仕組みも明らかにする必要があります。
第2点は「人的資本」への投資と経営戦略、財務などとの関係性に関する開示です。2022年8月に政府は「人的資本可視化指針」を公表しました。これは、人的資本が社会と企業のサステナビリティにとって中核的な要素であり、今や多くの投資家が人的資本に関して説明を求める声が大きくなったためと考えます。本指針で注目するのは可視化の方法の一つとして「自社の経営戦略と人的資本への投資や人材戦略の関係性(統合的なストーリー)を構築する」という点です。本レポートにおいても「経営計画と人財戦略の連動性を強化していく必要性がある」と述べられています。しかし、それらの連動性を分析し、その結果が開示されていません。これらの分析は容易ではありませんが、ぜひチャレンジし開示していただきたいと思います。
最後にネガティブ情報の開示について述べさせていただきます。本年度版編集のポイントの一つに「事故対応」があるとお聞きしました。しかし、本件についてはトップメッセージをはじめ数か所に記載がありますが、事故の深刻性の割には読者には印象が薄くなってしまっているのではないでしょうか。やはり、トップメッセージを受けて本文においてページを割き、2件の事実経過、原因究明、再発防止策をまとめて記載すべき、と考えます。また、次年度版以降は再発防止策の実効性の検証報告をしていただきたいと考えます。
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