特定非営利活動法人 循環型社会研究会
理事 山口民雄
当社のレポートに対する第三者意見は2011年版の「CSR報告書」以降、今回まで10年以上継続しています。10年以上かつNPOによる執筆はわが国では極めて稀有な例であり、その意義を確認しつつ責任を再認識する次第です。一方、統合報告書がメインレポートに移行する過程で第三者意見を添付する事例が少なくなっています。その理由は承知しておりませんが、統合報告書は従来の報告書と同様に非法定開示書類であり、発行者の創意工夫による開示が行われていることから第三者の意見は従来と同様の機能を有していると考えます。
レポートと同時に提示された「説明資料」によると今回のレポートのテーマは「デンカのESG経営」です。2021年11月の「ESG基本方針」の制定、環境経営からESG経営(=サステナビリティ経営と同意考えます)への転換、ESG経営を一層強化する2023年度からスタートする次期経営直前でのレポート発行を考えるとテーマの選択は妥当と考えます。また、社長メッセージや対談、さらに、取締役のスキルマトリックスにESGを定めたことなどからESG経営に対する熱意・強い意志が伝わってきますのでこの範疇では設定のテーマが十分反映しているといえるでしょう。ただ、「ESG基本方針」が骨格だけの紹介だけであり、レポートの基本テーマの割には簡易な記載で済ましている、という印象がぬぐい切れません。13項目に関する深堀した内容、戦略などを示すべきではなかったかと考えます。本レポートでは「熱意・強い意志」にとどまっていますので、2023年版では次期経営計画の中でどのように13項目を展開していくのか、KPIを設定して説明していただきたいと考えます。また、「将来の財務に結びつく非財務の取り組みを可視化させる準備を進めています」とありますので、13項目を中心にどのように時間軸を経て非財務が未財務、財務に転換していくのかを立証されることを期待しています。大変困難な取り組みですが、昨年「事業活動における重要指標を、財務成果までの期間を踏まえ関連図で表す」試みを実践していますので、立証可能と信じています。
本レポートで特に注目した点は以下の2点です。第1は「ビジョン策定プロジェクト」です。こうしたプロジェクトは少なくありませんが、若い社員44名で構成していることに注目しています。ESG経営は長期の時間軸の中でその実績が生まれてくる経営ですので、ビジョン策定には最適なプロジェクト構成と考えます。また、最近ではESG経営においてステークホルダーとして“将来世代”に注目することが一般的になってきましたので、その意味でも“将来世代”の期待に応えるビジョンの策定が可能と考えます。
第2が「次期経営計画について」です。わずか1頁の記載ですが読者の目を引く記載があります。その筆頭が「2023年度から2030年度までの8カ年の経営計画の策定」です。日本企業の多くが3年の中期経営計画を公表しています。この3年という期間について「中途半端であり、日本企業の成長力を失わせる遠因である」との批判もあります。企業経営が短期的思考から長期的思考に基づいた経営、ESG経営に転換している今日、確かに3年という期間は中途半端と考えておりました。こうした中で8カ年の長期経営計画の策定を進めている報告には心から拍手を送りたいと思います。
また、次期経営計画でマテリアリティを見直すことを明らかにされました。マテリアリティをめぐっては最近では新たな考え方が示されています。一つは、「マテリアリティは時代とともに変化する動的なものである」というダイナミックマテリアリティです。この観点から2017年に特定したマテリアリティは当然見直すべきであると思います。もう一つは「シングルマテリアリティ」「ダブルマテリアリティ」との考え方です。前者は企業が社会・環境から受ける財務的影響のみを考慮、もしくは企業が社会・環境に与えるインパクトを考慮したマテリアリティです。後者は、この両者を同時に考慮するマテリアリティですが、ESG経営にふさわしい統合報告書のマテリアリティとしてはダブルマテリアリティが妥当と考えます。
他に注目した項目は以下の4点です。カーボンニュートラルへ向けたロードマップの公表:TCFDにおいても移行計画を重視している、「誰よりも上手にできる仕事」:分かり易い言葉で深い意味を持っている、健康経営宣言:人的資本が重視される中で重要な経営課題になっている、生物多様性への対応:世界経済フォーラムが発表するグローバルリスク予測でもリスクのトップ3位にランクインしており、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の草案が公表されている。
以上から本レポートを総括的に評価すると「今後の取り組み、報告に大きな期待を抱かせる将来志向のレポート」と言えます。従って、次期レポートは、今期のコミットメントを忠実に反映した記載が不可欠です。
最後にレポートでは言及されていない点を2点提案させていただきます。第1が「企業理念体系の再構築」です。現在の企業理念「The Denka Value」は使命、行動指針から構成されています。一方、「ビジョン策定プロジェクト」では、コアバリュー、パーパス、ミッションが論議されています。私は企業理念は3つのWと1つのHで構成されると非常に分かり易いと思っています。すなわち、Why:なぜ存在するか=パーパス、Where:どこに向かうか=ビジョン、What:何を行うのか=ミッション、How:どのように実現するのか=バリュー、です。プロジェクトではこれらがすべて議論されていますので、新たな企業理念を構築することは可能と考えます。特にパーパスは企業理念の柱であり、共感により人と組織、組織と組織、組織と社会を繋げる重要な要素となり、ESG 経営の推進には不可欠ではないでしょうか。また、従業員エンゲージメントの向上を重視されていますのでパーパスを柱にした企業理念の共有は必ずや良い結果をもたらすと確信します。
第2はESG推進部署の確立です。ESG経営に対する「熱意と強い意志」を具体的に展開するためには推進組織が必要です。2021年6月に金融庁は「投資家と企業のガイドライン」を改訂しましたが、その一つに「委員会を設置するなど、サステナビリティに関する取り組みを全社的に検討・推進するための枠組みを整備しているか」との文面を追加し、委員会の設置を推奨しています。こうした意向に対応してESGを推進する社内委員会を設置する企業が増えています。法的な定義のない委員会ですが、指名・報酬等諮問委員会や監査等委員会に次ぐ第三の委員会として発足させたらいかがでしょうか。取締役会に直結した委員会とすることで、取締役会においてもESG経営論議がより活性化することを期待します。
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