特定非営利活動法人 循環型社会研究会
理事 山口民雄
2020年以降のコロナ禍や急速に進む脱炭素化によってビジネス環境は大きく変化し、ESG経営の重要性が一層増してきています。社会・環境課題と経営課題が直結していることが共通認識となっており、「ESG経営の観点から中長期的な価値創造に焦点を当てた」(編集方針)統合報告書は、従前以上に注目を浴びてきています。ESG情報は、法定開示媒体である有価証券報告書においても開示が拡大されてきていますが、統合報告書では有価証券報告書では表現できない企業独自の工夫された価値創造ストーリーを伝えることができるのが大きな特色であり、評価の大きな柱になります。
本報告書で最も注目したのは「環境戦略」です。日本政府のカーボンニュートラル宣言や46%削減表明の中で、2050年、2030年の目標を掲げてロードマップや具体的な取り組みを示しており、実現可能性を予感させます。なお、2030年目標は必達目標であり努力目標ではありません。2050年のカーボンニュートラル実現を占う大きな通過点であるとともに、世界気象機関が25年までに産業革命前と比べて1.5℃の気温上昇が起きかねないと警鐘を鳴らしていることから今後、2030年までのより緻密な、説得力のある定量情報を含むロードマップが示されることを期待します。
また、気候変動に関する開示では、TCFDに賛同し、その4つの中核的要素に関する記載や昨年より詳しいシナリオ分析に基づくリスクと機会が示されたことも高く評価できます。2021年6月に改訂された「コーポレートガバナンス・コード」では「TCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである」とあり、適切な対応と考えます。
日本企業はこれまで「過去の実績報告は得意だが、将来シナリオに基づく分析は不得手である」といわれていたことから、こうしたシナリオ分析は社内の思考の高度化に役立ったと推察します。今後、中核要素の11の推奨開示項目に沿った開示(特に投資家ニーズの高い〈戦略〉)やリスク・機会の影響を定量化(もしくは影響度:大、中、小と影響期間:長期、中期、短期)し、ステークホルダーの懸念、期待に応えるとともに、機関投資家などにとって”意思決定に役立つ“情報へと高めていただきたいと思います。
第2の注目点は「事業活動における重要指標を、財務成果までの期間を踏まえて関連図で表し」た点です。統合報告書の核心は財務情報と非財務情報との関係性を明らかにし、長期的な企業価値創造の可能性を伝えることにあり、こうした試みは核心を突いた記載であり、事例が少ないのが現状です。今後、こうした視点別の非財務情報を多く取り上げ、どのように財務成果に反映されるかを積極的に取り上げ、財務ロジックツリーなどにまとめられることを期待します。こうした記載により、非財務情報が未財務情報であることが周知されることでしょう。
第3の注目点は「事業ポートフォリオ変革」への取り組みを加速する熱意が伝わってきた点です。この変革は成長戦略の一つで、これまでも言及されてきましたが、カーボンニュートラルへ向けたロードマップの柱の一つになるなどその必要性がより切実になったことが伝わります。
経営環境が激変する中で企業が持続的に成長するためには経営資源をいかに配分するかが大きな課題となっています。こうしたことを背景に経済産業省は「事業再編実務指針~事業ポートフォリオと組織の変革に向けて」を策定し変革を促していますが、事業ポートフォリオ変革を経営計画に組み入れたもののその実現がとん挫、あるいは停滞している例もあります。本報告書では「2022年度までにポートフォリオ改革の明確な道筋を社内外に発表できるようにしたい」「2年間でポートフォリオ変革に目途をつける」との強い決意が表明されておりますので実現への不安は払しょくされました。
一方、期待していた記載が不十分なものもあります。それはCOVID-19への対応で、数か所での言及はありましたが包括的な記載はありませんでした。COVID-19の経済や社会に対する影響は過去の不況時や自然災害に比べ桁違いに大きく、景気後退に留まらず、既存のリスクを拡大・促進し、人々の価値観や生き方、さらに産業構造や経営手法、技術開発など幅広い領域で非連続かつ不可逆的な変革を起こしています。こうした事態に直面した時、企業がどのような信念で対応したかを報告書で包括的に記載することは、投資家をはじめ多くのステークホルダーが求めている“企業のレジリエンス(適応力、復元力)“の状況を伝えることに他ありません。COVID-19の終息の目途は不透明ですが、しかるべき時期に総括し、レジリエンスの視点で開示していただきたいと考えます。
個別の項目では「人権」への記載が極めて不十分です。国連が2011年に「ビジネスと人権に関する指導原則」を策定して以降、我が国へも人権重視の波が押し寄せてきています。報告書における人権の記載も開示要求の高まりに呼応して増加し、その内容も充実したものに確実に変化してきています。昨年、政府はビジネスと人権に関する行動計画をとりまとめ、企業に対して3つの要請(コミットメント、人権デューデリジェンス、救済)をしています。こうした状況を鑑みると、明確に「人権」の柱を立て、上記の3つの要請に応える取り組み、記載をすべきと考えます。
また、人権へのとらえ方をみると「人権リスクへの対応」(2020年版)、「主なリスクの内容」での記載(2021年版)に示されるようにリスク回避を目的とする「守り」の人権対応になっていることが読み取れます。今日では人権対応を企業価値向上戦略の一環に据えている企業もあり、今後は「攻め」の取り組み、開示に転換していただきたいと考えます。
情報開示についても一言申し上げたいと思います。本報告は昨年版の70頁から50頁に大幅に減頁されています。減頁自体はIIRCも統合報告書を「簡潔なPrimary Report」と位置付けていますので特段の問題はありませんが、同時に他の開示媒体との併存を前提にしていることが重要です。当社においても「ESG情報サイト」が設けられ、統合報告書の補完を意図していると思いますが、このレベルでの開示で十分であるか検証する必要があるのではないでしょうか。GRIやSASBなどのガイドライン、評価機関やインデックス関連会社の調査・質問項目などによって確認することが重要と考えます。業績は株価を上げるエンジン、情報開示は株価を安定させる安定化装置と言われておりますが、今日、情報開示もエンジンの一翼を担うようになってきているのではないでしょうか。検証とともに、年次報告の「ESG情報Book」などの発行を検討ください。
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